引越しと感謝/邱明慧-(129)

今年の夏休み、私はある重大な決断をした。それは引っ越し、即ち古い家を売って、新しい家を買うことだ。今まで住んでいた家は古い五階建てのマンションで、エレベーターがないので、年を取るにつれて、五階に上るのが段々苦しくなり、何れは引っ越さなければならないと、前々から思っていたのだ。実は、妻が二年ほど前に、路上でタクシーに撥ねられ、坐骨を強く打って、病院に運ばれて治療を受けたが、その後遺症で、歩くと腰と膝が痛み、特に階段を上る時は一歩一歩、幾度も立ち止まり、喘ぎながら上る、その姿を私は見るに忍びなかった。双連教会の老人福祉施設の優雅な環境に憧れて、あそこで二人で隠居しようかなと思ったこともあったが、妻は「島流しみたいだ」と言って拒んだので私は諦めて、階段を上らないで済む家を見つけて引っ越す事にしたのである。しかし、家を買うにはお金が要る。まず先に、今住んでいる家を売って、その金で家を買うことにした。


ある日、スーツ姿の若いセールスマンが私の家のドアをノックした。身形(みなり)が整って、誠実そうに見えたので、私は彼を家に入れて話を聞くことにした。彼が言うには、この家は一〇〇〇万元ぐらいで売れると、私が予想もしなかった高値だったので、私はすぐに乗り気になって買い手を捜してもらうことにした。数日後、周さんと言う名の中年夫妻が家の下見に来た。彼は温和な人柄で、礼儀よく家の中を見回り、気に入った口ぶりで礼を述べて帰って行った。そして、八月十四日、私は仲介人や代書を通じて、値段の駆け引きや意見を交わし、相手と売買合意に達し、正式な契約が結ばれた。 


住む家を売ったからには、契約通りに家を空け渡す準備をせねばならない。その翌日から早速家捜しに乗り出した。私の目標は:(一)階段を上らないですむ家、(二)価額は売った家ぐらいの範囲、(三)広さは窮屈でない程度、(四)交通や買い物が便利な場所、(五)息子の家に近い所、等である。セールスマンに連れられて、一日中駆け回って五、六軒の家を見て、最後にこの家を見付けた。価額は売った家の値段より少し高かったが、気に入ったからにはと踏ん張り、差額はローンて補う事にした。契約を結んだのは八月二十一日で、家を売って丁度一週間目の事だった。こんなに短い間に、家を売るのと買うのを同時に成し遂げた事は、神さまのお支えに依るもので、誠実なセールスマンや温厚な買手に巡り会えたのも神様の恵の賜物と思う。


荷造りを終えるまで、二ヶ月も掛かった。長い間蓄積した不用な物は捨て去り、必要な物だけを選んで荷作りする訳だが、それが、なかなか手間がかかる、不用になった物でも歴史や思い出があり、捨てるに忍びない。 知り合いの果物屋から包装用の段ボール箱を二十個あまり頂戴して、本や割れ物の包装に使った。疲れないように毎日少しずつ片付けて行った。日曜日に、息子と嫁も駆けつけて来て手伝ってくれた。妻は足が痛むし、煩わしい事は苦手なので、手を出さずに、只私のする事を見守ってくれた。  


引越しの日が近付いた十月半ばは、生憎雨降りの日が続き、引越しの日は予定より数日遅れ十月二十五日に行われた。その日の午後、私はお手伝いを雇って、空っぽになった家の中を、一緒に日が暮れるまで、念入りに掃除した。そして、長い間お世話になった我が家に最後の別れを告げた。


新しい家は、八階建てのマンションの四階にあり、エレベーターが付いている。公共設備を含めて四〇坪で、正味は二十八坪あまり、応接間に、ベッドルームが三つ、バスルームが二つで、それにダイニングルームと台所、二人で暮らすには申し分ない。築十一年、室内は新しく整備されていて、床の乳白色のタイルが部屋を明るく反映し、照明は全て省エネの電燈が使われており、エアコンも完備している。息子の家から歩いて十分も掛からない、市場もすぐ近くにあるので、買い物は便利だ。


神様の御恵みで、思いがけなくも立派な家を授った事を感謝すると共に、この度の引越しに関心と祝福を寄せられた兄弟姉妹に深くお礼申し上げます。

(理事)

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