特集 父の日に寄せて-父は天国で案内役/余甚足 姉(会員)-(140)

玉蘭荘のイベントの一つに「父の日を祝う」があります。私は昨年「父の人となり」を書き、玉蘭荘だより一三六号に掲載して頂きました。そして今年の「父の日」には、また違った角度から父を見て頂く事に致しました。

信仰に篤いクリスチャンだった父が六十二歳で亡くなった翌一九四四年(昭和一九年)の事でした。父の経営していた炭鉱でこのような事故が起こりました。炭鉱夫が坑内から運び出したボタ(石炭の無い石)をボタ山に落とす時、台車もろとも落下してしまったのです。さぁ大変。炭鉱夫の許さんはすぐに基隆病院に搬送されましたが、丸二日間人事不省で医者も手の施しようがなく、ただ観察するのみでした。ところが三日目に突然目を覚まし、男泣きに大声で「火旺伯!火旺伯!」(私の父の名、余火旺)と泣き叫びました。危篤状態とも言える許さんが再び意識を取り戻し、彼が言うには、自分が天国の門の側で、中に入れなくて覗いていると中に父が見えたそうです。父は許さんを天国に案内して回りました。天国は実にすばらしい所で、暖かい黄金色に輝き、黄金の道を歩くのに足がすくんだと言います。そしてズラッと並んだ部屋の壁は宝石をちりばめたまばゆ過ぎるほどの明るさだったそうです。戸が閉まっているのですが、もし中に入ればもっと美しいだろうと思ったそうです。真珠板の戸口には名札があり、自分の部屋が見たいと言うと、案内役の父が「あなたは仕事がまだ残っているから帰らなければならない」と言ったのだそうです。許さんが、「いや、私はこんなすばらしい所にこのまま居たい。帰れば心配な事が三つある。一つは事故で体が悪くなった事。二つ目は経済的にいくら働いても楽にならない事。三つ目は、今は戦争中で食べ物が不足し、毎日お腹をすかせている状態である事。」と言うと、私の父は「今までキリスト教を知らなかったでしょう?あなたはこれから教会に行きなさい。そして熱心に神様を信じなさい。神様はあなたのすべての悩みを解決してくれます。」と言ったそうです。その言葉を聞いているうちに、いつの間にかそこは最初に会った門の所で、互いに三度の礼を交わしたとたん意識が戻ったのだそうです。

不思議な事は聖書や聖詩を知らないノンクリスチャンの許さんが見て来た天国の一部は、聖書の中にある天国とあまりにも似通っている事です。

その後、許さんは医者も驚くほど体調が良くなり、早く教会へ行きたいがため、退院をお願いし、通院にしてもらいました。もちろん私の父の教えた言葉は忘れず教会へ通いました。彼の信仰を追求する熱心さは、牧師をはじめ皆を感心させました。そして父とゆかりある瑞芳教会をはじめ基隆地区一帯の教会で、天国で私の父に会った話を証するようになりました。私は許さんの証を何度か聞きましたが、瑞芳教会での証で知った事は、許さんの三つの悩みはすべて神様が解決して下さったという事です。

一、事故で怪我した体は通院しながらすっかり良くなった。

二、経済の心配は、坑外の比較的楽な仕事を会社から与えてもらい、固定収入で安定した。
三、食料難は、その年に終戦となり戦時中の状況から逃
れる事が出来た。心から神様に感謝です。
このように事故で疑似死を体験し、そこから蘇生した許さんは、洗礼後熱心なクリスチャンとなりました。教会の外に、ある時はバスの中や汽車の中でも証をする許さんは、私の父の命日をも忘れません。父の命日に家でおこなう追悼礼拝には必ず参加して下さいました。

神様は決して事を中途半端にはなさいません。すべての事をよくして下さいます。
これをお読みのあなたの為にも違った事をなさろうとされておられる事でしょう。
神は讃むべきかな
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